つい数日前、比較的高価な買い物をしました。前々から気になっていた、ポータブル電源です。かなりいろいろ迷った末、最終的にPhilipsのDLP8092Cを購入したのですが、その決断に至るまでの過程を簡単に整理しておきます。
ポータブル電源の必要性を感じた理由
もともと災害対策としてのポータブル電源には興味があったのですが、これは最近地震が増えてきたことが一番大きいです。管理人の居住地域は東京都下の住宅地で、通常時は電源供給に不安を感じることはありません。近くに東京都災害拠点病院があるためか、3.11の時の計画停電の対象になることもありませんでした。
しかし、当たり前ではありますが、災害が来た時に備えておけばよかったと嘆いてもどうしようもありません。ハザードマップを見ても地勢上のリスクはなく、大災害発生時でもライフラインが長期間完全に停止してしまうという可能性は低いと思われますが、一定時間は停止することは覚悟する必要があると思っています。電気・ガス・水道の中でも、短期間の停止でも困ったことになるのは電気だと考えていたので、ポータブル電源はいつかは欲しいと思っていたアイテムの一つとしてずっと気になってはいました。
ちなみに管理人の自宅は集合住宅 (URの賃貸) なので、屋内もしくはベランダで利用可能であることが最低条件になります。最上階でも角部屋でもなく、ベランダは破壊可能な壁一枚を隔てて、隣の部屋と繋がっているため、騒音などの近隣への迷惑は最大限に配慮する必要があります。
エンジン型の発電機は集合住宅では利用不可能
まず最初に考えたのが、燃料でエンジンを動かして発電する自家発電機です。ガソリンで動く本格的なものはさておき、カセットコンロ用のガスボンベで駆動するタイプの製品であれば使えるかも、と考えたのです。このタイプの最大のメリットは燃料がある限り動き続けてくれる点で、長期間のインフラ停止に備えるには最適解に見えました。
しかし、よく調べてみて初めて分かったのですが、たとえガスボンベといえども燃料を燃焼してエンジンを回すことには違いないため、動作させると排気 (一酸化炭素) が発生します。これを室内で動かすのは自殺行為であり、ベランダでも換気はいいとは言えません。価格とリスクの内容によっては買って試してから考えるという手もありますが、人命に関わるので潔く却下です。
また、ガソリンで動くタイプに比べれば出力が低いとはいえ、ガスボンベで動くエンジンでも相当の騒音が発生することもわかりました。この手の製品ではもっともメジャーなHONDAのEU9iGB公式サイトを見ると、定格負荷 (900VA) で84デシベル、1/4負荷でも79デシベルの騒音が発生するとされています。以下の解説を見ると、これが非現実的な数字であることがよくわかります。なお、騒音に限れば無音騒音を謳う製品も存在しますが、排気はどうしようもないのでやはり無理だと判断しました。
郊外の深夜や呟く程度の声は30dB、図書館の中や閑静な住宅地の昼は40 dB、静かな事務所になると50 dB程度とされます。さらに、60 dBになると静かな乗用車や普通の会話程度です。 もっと大きくなると70 dBで電話の着信音や人通りの多い街頭や騒々しい事務所、80 dBは地下鉄の車内や電車の中、90 dBは大きな歌声や工事の中、100 dBは電車が通過するときのガード下となります。
…一般的な木造住宅では30~40 dB、マンションでも30~60 dBまでの防音対策が限界とされます。最先端の防音設備を備えたスタジオも、防音性能は80 dB程度とされ、これ以上の音が出てしまう装置を使用する事業所では特殊な設備をしなければ、騒音対策を100%万全にはできません。
騒音値について@モノタロウ
エンジンで駆動する発電機が検討外になると、一気に選択肢は狭まります。色々調べた結果、巨大なモバイルバッテリー = ポータブル電源しかないという結論に達しました。水を入れると発電が始まる製品など、その他の製品もあるにはありますが、確認できた限りではスマホの充電に使える程度の出力しかありませんでした。
どれくらいの容量を目指すのか
ポータブル電源には実にさまざまな製品がありますが、基本的に電源容量 = 電池が大きくなれば大きくなるほどサイズが大きくなり、価格も高くなってゆきます。基本的に大は小を兼ねるのですが、収納場所や予算の問題もあるので、目的に叶う限りでなるべく安価な製品を選びたいものです。前述の通り、我が家の最大の目的は停電中に自宅の家庭用冷蔵庫の機能を維持することにあります。自宅の冷蔵庫は、三菱電機のMR-JX47LA-RWという製品で、メーカーが公開している仕様表を見ると、消費電力は次の通りでした。
- 定格消費電力(W)
- 電動機 : 76
- 電熱装置 : 226
- 年間消費電力量 : 260kWh
電熱装置は霜取り運転をする時の消費電力なので、通常運転時の消費電力は電動機の数字ということになります。しかし、電源を切った状態から電源を入れる際に、瞬間的に非常に大きな電力を必要とします。起動電力と呼ばれるこの電力は、冷蔵庫の場合定格の最大4倍程度とのことなので (インバーター型の場合、上記冷蔵庫は省エネ型製品情報サイトによるとインバータ型とのこと、インバータ方式でない古い冷蔵庫は最大10倍らしい)、MR-JX47LA-RWの場合76W × 4 = 308W程度を見込んでおけばいいということになります。しかし、普通にググると消費電力250Wの家庭用冷蔵庫の起動電力は1,000Wと記載されているサイトが多い (こことかこことかこことか) ので、この数字 + 若干の余裕を見込んだ容量を目指すべきと考えました。ポータブル電源は高価 & 何度も購入する製品ではない上、非常時の生命線になる可能性があるので、確実に動作する & 信頼度が高い製品を選ぶべきだとの判断です。
ちなみにですが、こちらの方が上記冷蔵庫に近いスペックの製品 (年間消費電力量 : 263kWh/年、定格消費電力(電動機) : 76W、定格消費電力(電熱装置) : 220W) をJackery 1500 (定格 1,800W / 瞬間最大 3,600W) に接続して耐久試験を行ったところ、10時間以上持ったと報告しています。 Jackeryの他製品での目安も計算されており、Jackery 1000 (定格1,000W / 瞬間最大2,000W) だと6.5時間、Jackery 708 (定格500W / 瞬間最大1,000W) だと4.6時間持つはずとのことです。
持続時間については、3.11の時の東京都の計画停電は最大3時間だったので、これを目安とします (これを上回るレベルの災害であれば、そもそも自宅に留まるという選択肢はないでしょう)。 持続時間だけ見ればJackery 708の4.6時間でも十分な気がしますが、瞬間最大が1,000Wだと起動電力の関係で冷蔵庫が起動しない可能性が否定できないため、Jackery 1000と同等以上の出力 (1,000W) と瞬間最大出力 (2,000W) を目安とすることにしました。
どのポータブル電源を選ぶのか
出力 / 最大出力がJackery 1000と同等以上の製品をちょっと調べてみた結果、以下のことがわかりました。
- 様々な製品があるようだが、やはりJackeryの製品が圧倒的に評判がよく、情報量も多い。
- 市場には様々な製品が存在するが、なぜか著名メーカー製のものは非常に少ない。
- 唯一の例外がJVCの製品だが、これはJackeryのOEMなので実質中身は同じ。
これはJackery一択か、と思ったのですが、この分野のトップブランドであるためか、管理人の目にはかなり割高に見えてしまいました。Jackeryは直販以外にもAmazonや楽天、Paypayモールなどでも取り扱いはあり、様々な形で間断なくセールをやっていますが、迷っている一番最初の時期に見た価格 (Paypayモールでの30%引きクーポン + Paypay15.5%ポイント還元 = ¥139,800 × 0.7 × 0.845 = ¥82,700相当) が強烈に印象に残っていて、それより高い価格で購入する気がどうしても起きませんでした。
Philipsのポータブル電源がある?
そうやってネットの海をさまよっているうちに見つけたのが、PhilipsのDLP8092Cでした。フィリップスといえば日本での知名度こそ今一つですが、社歴130年以上の世界的な電気機器製造メーカーで、Amazonでしか見かけないJackery以外のその他大勢の電源とは明らかに格が違います (主観が入っているかもしれません…)。こんな製品もあったのかと思い、真面目に調べてみることにしました。
ちょっとググればすぐにわかりますが、この製品はクラウドファンディングで開発された製品で、プロジェクト自体は2021年2月に終了、すでに賛同者には発送が完了しているようでした。このため購入は不可能と思いきや、なぜか断続的にAmazonで入荷があることがわかり、とりあえず欲しい物リストに入れつつ他製品との比較を続けました。
クラウドファンディングのページに製品の詳細な仕様と同等製品との比較表があるのですが、項目が恣意的に偏っていたため、可能な限りの項目を追加した比較表を自分で作ってみました。
製品名 | Philips DLP-8092C | Jackery 1000 | CRECREDI G1000 |
容量 | 324,000mAh @3.6V 1,166Wh | 278,400mAh @1,002Wh | 300,000mAh @3.7V 1,100Wh |
サイズ(mm) | 335x231x206 | 332x233x243 | 340x250x230 |
AC出力 | 定格1,000W/最大2,000W 100V(50/60Hz) x 3 | 定格1,000W/最大2,000W 100V/10A(60Hz) x 3 | 定格1,200W/最大3,000W 100V-120V, 220V-240V (50Hz/60Hz) x 3 |
DC入力 | (6530) 24V/5A | (7909) 24V/7.5A (12-30V対応) | 200W |
DC出力 | (5521) 12V/5A x 2 シガーソケット 12V/10A | シガーソケット 12V/10A | (5521?) 12V±1V/7A x 2 シガーソケット 12V±1V/7A |
USB-A出力 | 5V/2.4A x 2 | 5V/2.4A x 1 | 10W 5V/2.1A x 2 |
USB-C出力 | PD 27W 5V/2.4A, 9V/3A, 12/2.25A x 1 | 5V/3A, 9V/2A, 12V/1.5A x 2 | PD 45W 5V/3.6A, 9V/3.6, 12V/3.6A. 20V/2.6A x 1 |
USB-C入出力 | PD 100W 5V/3A, 9V/3A, 12/3A, 15V/3A, 20V/5A x 1 | なし | なし |
QC3.0出力 | 5V/3A, 9V/2A, 12V/1.5A x2 | 5-6V/3A or 6.5-9V/2A or 9-12V/1.5A x 1 | 18W 5V/3A or 9V/2A x 1 |
アンダーソン入力 | 13-24V | 18V/11.2A (専用変換ケーブル出力) | 150W |
太陽光充電 | 専用100Wソーラーパネル (NC-1901PP) | 専用ソーラーパネル (60W /100W / 200W、2枚同時使用可) | 専用100Wソーラーパネル (2枚同時使用可) |
充電時間 | 電源アダプタ : 10-12h シガーソケット : 12-16h ソーラーパネル : 約15h USB-C : 12h | 電源アダプタ : 7.5h シガーソケット : 14h ソーラーパネル : 17h (100W/1枚) | 電源アダプタ : 6-8h ソーラーパネル : 4-6h(2枚使用時)? シガーソケット : 不明 |
パススルー | 〇 | 〇 | 〇 |
出力波形 | 正弦波 | 正弦波 | 正弦波 |
搭載バッテリー | リチウムイオン “さまざま有名な電気自動車にも使用される規格のバッテリーを72コ” (21700) | リチウムイオン “高エネルギー円筒型リチウムイオン電池 (18650)” | リチウムイオン “海外の高級車専門メーカー (誰もが知っている高級車です) のEVの殆どに搭載されている” CATL社製 |
充電温度 | 0~45°C | 0~40°C | -10~45°C (作動温度) |
動作温度 | 0~45°C | -10~40°C | -10~45°C (作動温度) |
騒音 | 50db (本体が40°を超える過熱状態での冷却ファン作動音) | 65db (ユーザによる実測) | 内部温度40°C以上でファン回転 |
BMS管理項目 | 過充電、過電流、温度、過電圧、ショート、過負荷 | 過充電、過放電、過電流、短絡、温度、ショート、過負荷 | ショート、過充電、過放電、温度 |
充電回数 | 1,000サイクル以上 1,000回超で容量85%程度 | 500サイクル後容量80% | フル充電1,800回以上 |
長期保存 | フル充電後1年間放置で80%以上 | フル充電後3か月放置で80%以上 | 満充電後4~5か月で放電 |
保障期間 | 商品到着から2年間 (クラウドファンディング)、1年間 (Amazon) | 24ヶ月 | 商品到着日より1年間 |
重量 | 11kg | 10.6kg | 11.1kg |
定価 | \119,880 (クラウドファンディング) | \139,800 | \149,800 |
実勢価格 (2022/1/15時点) | ¥72,528 (Amazon) | ¥110,442 (Amazon, ポイント22%) | (クラウドファンディング終了後の一般販売なし) |
かなり長大な表になりましたが、気になる項目をコメントしてゆきます。表中の青太文字はマイナスポイント、赤太文字はプラスポイントです (前述の使用用途を踏まえた個人的見解)。
容量
同じような容量の製品を比較しているので、当たり前ですがほとんど同じです。もちろんその中でも大きいに越したことはなく、DLP8092Cが最大ではありますが、仕様だけ見るとJackeryの出力は少し低い気がしますが、実用上問題はないと思われます。
AC出力
CRECREDIの定格1,200W / 最大3,000Wが光ります。起動電力を気にするならば最大出力は大きいに越したことはなく、3,000Wもあれば冷蔵庫でも安心できそうです。もっとも、PhilipsとJackeryの2,000Wもポータブル電源としては十分大容量であり、スペック的にも動かないはずはないはずです。
USB-C出力
PD 45Wに対応しているCRECREDIがもっともUSB Type-Cの機器を早く充電できるように見えますが、実際はUSB-C入出力に唯一対応しているPhilipsが、そのポートでPD 100Wに対応しているので、こちらが最高速ということになります。PD 100Wを必要とするのは事実上ノートPCということになり、罹災時にPCの充電速度を気にする人はまずいないと思うので、このメリットが刺さる人は限られているでしょう。
どちらかと言えば、スマホの高速充電のニーズはあるはずです (特にポート数が少ない場合)。スマホには100Wもの出力は不要ですが、PDは利用開始時に給電側とスマホとの間でネゴシエーションを行なってワット(W)数を決めるので、これこそ大は小を兼ねるはずです。そういう意味でも、PD 100WがあるPhilipsが最強と言えるでしょう。
USB-C入出力
上記3製品で、PhilipsのみがUSB-C経由での充電が可能となっていますが、これがどれだけ役に立つかは正直かなり疑問です。ACアダプタでの充電の下位互換でしかないので、ACアダプタがない時くらいしか役に立つ場面がないのではないでしょうか。
太陽光充電 / ソーラーパネル
おそらくですが、これがJackery製品の最大の強みでしょう。純正で200Wの出力を持つソーラーパネルがあり、しかも2枚を連結して充電することができます。罹災期間が長期間に渡れば、どれだけ節電してもいつかは充電が必要になるため、太陽光による充電が短時間でできるのは、とてつもなく大きなメリットと言えるでしょう。
管理人も、余裕があればソーラーパネルは欲しいと思っています。本体に比べれば比較的安価で収納もコンパクトであること、直射日光があれば集合住宅のベランダでも理論値に近い出力が得られること、緊急時に目立つことを厭わなければ、その辺の路上でも充電できることは、考慮する価値があるメリットだと思っています。
騒音
特に室内で利用する際には重要な項目ですが、意外と情報がないのが騒音です。DLP8092Cの公称値は50dbとされており、室内で利用するのが現実的な数値とされています。近隣への迷惑という意味では建物の構造や部屋の場所にもよりますし、感じ方には個人差があるので一概には言えないでしょうが、少なくともエンジンのような非現実的な数字でないことが事前に分かっているのはありがたいといえるでしょう。
BMS管理項目
要するに、どのような異常を検知する機能があるかということです。個人的にはG1000がちょっと少なすぎるのではと思いますが、少なくとも最低限の項目はカバーしていると個人的には思います。
充電回数
どの製品であれ、記載されている回数の充放電を繰り返す人はまずいないと思うので、管理人はまったく気にしませんでした。G1000がフル充電1,800回とありますが、確かに日常的に電気自動車に乗るのであればこの回数はあり得るのでしょうが、アウトドアや災害用途でのモバイルバッテリーには過剰なスペックといえるでしょう。Jackery 1000のサイクル充電 (20%まで減ったら80%までの充電を繰り返す) 500回でさえ、ここまで使い込む人はほとんどいないのではないでしょうか。
長期保存
災害用という観点から言うと、おそらく満充電してしまいこんで、時々引っ張り出して放電→充電する、というサイクルを繰り返すことになると思うので、充電回数よりも長期保存が利くかどうか (その結果としてどれくらいの残容量が確保できるのか) の方がはるかに大事だと思っています。これについてはDLP8092Cがもっとも優秀な客観的データを提示しています。
製品選定の決め手
繰り返しになりますが、一定の信頼度を満たした上でコストパフォーマンスが優れているように見えた、ということになります。Amazonに出品されている様々なメーカーの素性を一つ一つ調べる気には到底なれず、かといって多少の割引が入ってもJackery 1000はやはり高価ですし、いつ来るかもわからないセールを悠長に待つ気にもなれなかった、ということになります。
DLP8092Cの最大の難点は入手性でしょう。2022/1/15時点で楽天に在庫ありの店舗がありますが99,800円と、72,528円のAmazonに比べるとかなり高価で、この価格を見た後では躊躇してしまいます。そのAmazonも常に品薄で、配送まで時間を要するの場合がほとんどです。管理人の場合、Amazonでもポイントが付くd払いのd曜日に、たまたま在庫が1点だけあるのを見かけて、10分ほど悩んで購入できましたが、かなりラッキーなケースでしょう。
個人的には、迷ったり待っている間に本当に災害が起こり、”ああ、多少高価でもあの時に購入ボタンを押しておけばよかった…”となることが一番望ましくない結末だと思っているので、ある程度のところで腹を決めて、購入に踏み切ってしまうのがいいと思います。
参考情報
一般社団法人防災安全協会という、とてもまっとうな団体があるのですが、ここが災害用のポータブル電源に関しての認定を行っており、認定を受けた製品を公開しています。本稿で取り上げたDLP8092Cは残念ながら掲載されていませんが (クラウドファンディングの製品なのである意味当然だと思う) 、フィリップス社の先行商品であるDLP8088NCは掲載されているので、DLP8092Cも問題ないと考えております。
もし自分が聞いたこともないメーカー製のポータブル電源を購入しようと考えているのであれば、ここに掲載されているかどうかを一つの目安にしてみてもいいかもしれません。